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仙台地方裁判所 昭和52年(ワ)1001号 判決 1979年5月14日

原告

高橋孝

ほか二名

被告

遠藤弘毅

ほか一名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して、

(一) 原告高橋孝に対して、金四三九七万五六七八円及び内金四〇九七万五六七八円に対する昭和五一年一月一五日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を、

(二) 原告高橋幸雄、同高橋稔の各々に対し、金一〇〇万円及び昭和五一年一月一五日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を、

それぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文同旨

2  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

原告高橋孝(以下原告孝という。)は昭和五一年一月一四日午後七時頃、自動二輪車(以下原告車という。)を運転して、宮城県多賀城市八幡字上大塚八六番地の一先路上(以下本件事故現場という。)を仙台から塩釜方面に向つて進行中同道路(幅員一〇メートル)を対向して進行してきた被告西村叶(以下被告西村という。)の運転する普通貨物自動車(以下被告車という。)の前部が原告車右側面部に衝突し、よつて原告は入院九か月を要する右下肢大腿骨部以下切断の傷害を受けた。

2  被告らの責任

(一) 被告西村

被告西村は、停止した対向車両の直前を、道路端を左方から進行してくる自動二輪車や自転車のあることを予見しながら、それらの車両が停止してくれるであろうと軽信し、左方の安全確認義務を怠り、また、幅員の広い(一〇メートル)道路から狭い(三・五メートル)道路に右折進行する場合には、直進車の進行を妨害しないように徐行して直進すべき注意義務があるのにこれを怠り左方をよく見ずに急にハンドルを右に切り、漫然一五キロメートル以上の速度で進行した過失により本件事故を惹起した。

(二) 被告遠藤弘毅(以下被告遠藤という。)

被告遠藤は、被告車を保有し、被告西村を使用して自己の営む室内インテリア業のために被告車を使用していた。

3  原告孝の受けた損害

(一) 治療費等

(1) 治療費 金二〇六万六一六〇円

(2) 入院諸雑費 金一三万五〇〇〇円(一日五〇〇円の九か月分)

(3) 付添費 金八万〇一〇〇円(一日二一〇〇円の三九日分)

(4) 通院交通費 金九万六〇〇〇円(六〇〇〇円の一六回分)

(5) 松葉杖 金四三〇〇円

(二) 慰藉料

(1) 入院慰藉料 金一四三万三〇〇〇円(九か月の入院に対して)

(2) 通院慰藉料 金一三万五〇〇〇円(一か月の通院に対して)

(3) 後遺症慰藉料 金八〇〇万円

(原告孝の後遺症は後遺障害別等級表第四級五号に該当し、また、本件事故による傷害のため同原告の婚約が破談となつた。)

(三) 休業補償及び逸失利益

(1) 休業補償 金四〇三万二〇〇〇円(原告孝の本件事故当時の一か月の収入一六万八〇〇〇円×二四か月分)

(2) 逸失利益 五一八五万七九七一円(うち三八八九万三四七八円を本訴で請求する。)

原告孝は本件事故当時大工であり、大工の一日の賃金は昭和五一年四月一日から八〇〇〇円となつた。

二二万四〇〇〇円(一日八〇〇〇円×二八日)×〇・九二(労働能力喪失率)×一二か月×二〇・九七〇(二九歳のホフマン係数)=五一八五万七九七一円

(四) 弁護士費用 金三〇〇万円

(五) 損害の填補

原告孝は、被告らより金一三八九万九三六〇円の支払を受けた。

4  原告高橋幸雄(以下原告幸雄という。)、原告高橋稔(以下原告稔という。)の損害

原告幸雄、同稔は原告孝の父親及び母親であるが、結婚を間近に控えた原告孝が本件事故によつて婚約が破棄になり、かつ重大な後遺症を受けたことに両親として深刻な精神的損害を受けた。その精神的損害に対する慰藉料として各金一〇〇万円が相当である。

5  よつて、原告らは、被告らに対し連帯して、本件事故に基づく損害賠償金及び右賠償金のうち弁護士費用を除いた金員に対する本件事故の日である昭和五一年一月一五日から右完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金として、それぞれ請求の趣旨第一項記載の金員の支払を求める。

二  被告らの答弁

1  請求原因に対する認否

請求原因1、同2(二)の事実は認め、同2(一)のうち、道路の幅員は認め、その余の事実は否認する。

同3のうち、原告孝が後遺障害等級表第四級五号と認定されたこと、原告孝が被告らおよび自賠責保険から合計金一三八九万九三六〇円の支払を受けたことは認め、その余は争う。

同4のうち、原告幸雄、同稔が原告孝の父母であることは認め、その余の事実は否認する。

2  本件事故の状況

本件事故現場は、東西に走る幅員一〇メートルの国道四五号線(以下国道という。)と、北北西から南南東に走る幅員三・五メートルの道路(以下交差道路という。)とが交差する交通整理の行われていない交差点(以下本件交差点という。)であり、国道には道路両端からそれぞれ一・五メートルのところに外側線がひかれている。被告西村は被告車を運転し、国道を東から西に向つて進行し、本件交差点の約三〇メートル手前で右折の合図を開始するとともに、徐々に道路中央に寄つていき、本件交差点東側手前で一時停止して対向車両の切れ目を待つていた。国道を西から東に向う車両は渋滞していたが、被告車が一時停止した後しばらくすると、対向車が交差点西側手前で一時停止し(以下先頭対向車という。)、後続する対向車両も続いて次々と一時停止し、先頭対向車の運転者がクラクシヨンを鳴らして被告車の右折を促したので、被告西村は直ちに被告車を発進させ、時速約一五キロメートルの速度で、交差点中心の直近の内側を右折進行し、車体が国道と四五度以上の角度で大部分対向車線内に入りつつあつたとき、西方より前記対向車線の停車車両の左側の外側線の外側を時速約三〇キロメートル以上の速度でごぼう抜きしてきた原告車を五・七メートルの距離に発見した。そこで被告西村は直ちに急制動をかけたが、約一メートル進み、被告車の前端が右外側線にさしかかつたとき、その前部右角附近が前記速度のまま本件交差点内に進入してきた原告車右側ガソリンタンク附近に衝突した。

3  原告の過失および被告西村の無過失

右外側線は道路交通法二条一項三の四号に規定する路側帯を表示するものであり、同法一七条一項本文、同法一七条の二は、軽車両を除く車両は、路側帯と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない旨規定しており、前記原告車の行動から考えて、原告車が本件交差点附近で停車するつもりであつたとは考えられないから、同法一七条一項但書の例外的に路側帯内の通行が許される場合には該当せず、被告西村には、路側帯内を高速で進行してくる車両のあることまで予見すべき注意義務はなく、被告西村には過失はない。本件事故は、前方及び渋滞車両の動向に注意し、適宜減速して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、通行禁止の路側帯内を時速約三〇キロメートル以上の速度のまま進行し、本件交差点に進入した原告の過失に基因する。

4  被告遠藤の自賠法三条但書の免責の抗弁

前記のとおり、本件事故は被告西村には何らの過失はなく、原告の一方的過失によつて惹起されたものである。

5  過失相殺の抗弁

仮に被告西村に過失があるとしても、本件事故は原告の過失が重大であるから過失相殺されるべきであり、前記事故状況、原告の過失態様からすれば、原告の過失割合は七〇パーセントを下らない。

三  被告らの主張に対する原告の認否及び反論

原告車が路側帯を進行していたことは否認する。

二の3ないし5は争う。本件事故は被告西村の一方的過失に帰因するものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1および2(二)の各事実は当事者間に争いがない。そして右請求原因2(二)の事実によれば、被告遠藤は被告車を自己のために運行の用に供していた者であると認められる。

二  次に本件事故の状況について判断する。

1  前示請求原因1の事実及び成立に争いのない甲第四ないし第七号証、同第一四号証、原告高橋孝、被告西村叶各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は東西に走る幅員一〇メートルの国道とこれとやや斜めに交差し北北西から南南東に走る幅員三・五メートルの交差道路が交差する信号機のない交差点である。国道は、平坦なアスフアルト舗装道路で、中央線がひかれ、車道は片側一車線(幅員三・五メートル)で、道路両端からそれぞれ一・五メートルのところに外側線がひかれて路側帯が設けられている。

本件事故当時は晴天であつたが、既に暗くなつており、本件交差点附近の国道の西から東へ(仙台方面から塩釜方面へ)向う車線は車両が数珠つなぎとなつて渋帯していた。

被告西村は、被告車を運転して国道を西進し、本件交差点で右折して交差道路を多賀城方面へ向うため、本件交差点の約二〇メートル手前で右折の合図をして中央線に寄り、前照灯をつけて本件交差点手前で一時停止して、対向車線の車両の切れ目を待つていた。すると対向車両のうち一台の普通乗用自動車が交差点西側手前で停止し、その後続車両も次々と停止した。そして先頭対向車の運転者が警音器を鳴らして被告車の右折を促したので、被告西村は被告車を発進させて右折を開始し、ローギアのまま時速約一五キロメートルの速度で車体の大部分が対向車線に入つた地点で、対向の停止車両の外側の路側帯上を東進してくる原告車を左前方約六メートルの距離に発見し、急制動をかけたが間に合わず、約一メートル前進して被告車右前部を原告車右側タンク附近に衝突させ、その直後に停止した。停止した時、被告車の右側前部附近は外側線の外側にあつた。

原告孝は原告車を運転して国道を東進し、本件交差点附近で同一方向に向う車線が混雑していたため、それら渋滞車両の左にある路側帯上を時速約三〇キロメートルの速度で進行して渋滞車両を次々と追い抜き、本件交差点に進入して被告車と衝突し、原告車は約一〇メートル先の道路端に横転し、原告はさらに約九メートル離れた道路脇に投げ出された。

2  原告高橋孝本人尋問結果中には原告車は外側線内側(車道上)を通行していた旨の供述がある。しかし、前記認定のように、片側車線の幅員は三・五メートルであり、原告車と同方向の車線には、自動車が数珠つなぎになつて渋滞しており、さらに被告西村叶本人尋問の結果によれば、被告車の対向車線で停止した車両のうち先頭から三台目は大型バスであつたことが認められ、前掲甲第五号証によれば、原告車の幅は〇・八六メートルであることが認められるので、以上の幅員の関係及び前記1認定の衝突地点、衝突部位等に照らせば、前記原告高橋孝の供述は採用することができず、他に前記1の認定を左右するに足りる証拠はない。

三  そこで原告孝および被告西村の過失の有無について判断する。

本件事故現場付近の外側線外側は道路交通法二条一項三号の四に規定する路側帯である。同法一七条一項本文は、車両は路側帯と車道の区別のある道路においては車道を通行しなければならない旨規定しており、本件の場合が同条一項但書の場合に該当しないこと前記認定により明らかである。すなわち、自動二輪車たる原告車は路側帯を通行してはならないのに、原告孝はこの規定に違反して路側帯を通行し、または前記二1認定のとおり本件交差点附近の原告車進行方向の車道は自動車が渋滞しており、原告車からの見とおしが悪かつたにもかかわらず、原告孝は、前方の安全を確認し適宜減速することなく、漫然時速約三〇キロメートルのままで本件交差点に進入したものであつて、これは原告孝の重大な過失である。

ところで、自動車の運転者が交差点で右折しようとする場合には前方(対向方向)の交通状況に十分注意し、直進しまたは左折しようとする対向車両があるときはその進行を妨げてはならないのであるが(道路交通法三七条)、右にいう直進又は左折の対向車両とは適法に運転される車両でなければならないこと当然である。およそ自動車の運転者は、他の交通関係者も交通法規を守つて行動するものと信頼し、かかる信頼を前提として自動車運転者としての注意義務を尽くせば足りるものであり、本件のように車両の通行の禁止されている路側帯上を進行してくる自動二輪車のありうることまで予見して、これに対する注意を払つて進行すべき義務を負うものではないと解するのが相当である。前記二1の認定によれば、被告西村は対向車線外側の路側帯上を進行してくる車両のありうることまで注意していなかつたことが認められるが、被告西村はかかる注意義務を負わないから、同被告には本件事故につき過失はなかつたというべきである。

以上のように被告西村には過失はなく、本件事故はもつぱら原告孝一の一方的な重過失によつて惹起されたものである。

四  被告遠藤の自賠法三条但書の免責の抗弁について

本件事故は、原告孝の一方的な過失によつて惹起されたものであり、被告西村に過失はないことは前示三のとおりである。なお前記認定の本件事故の状況から考えて、被告遠藤には過失がないと認められる。

また、前掲甲第五号証、被告西村叶本人尋問の結果によれば、被告車には、ハンドル、ブレーキ、前照灯、方向指示器等に故障はなく、構造上の欠陥又は機能の障害はなかつたことが認められる。

従つて、被告遠藤の自賠法三条但書所定の免責の抗弁は理由がある。

五  よつて、その余の点について判断するまでもなく、本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石川良雄 藤村真知子 木下重康)

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